ば》も掛けず。
 その中《うち》に幕が閉《しま》った。
 満場わッと鳴って、ぎっしり詰《つま》ったのが、真黒《まっくろ》に両方の廊下へ溢れる。
 しばらくして、大分|鎮《しず》まった時だった。幕あきに間もなさそうで、急足《いそぎあし》になる往来《ゆきき》の中を、また竹の扉《ひらき》からひょいと出たのは、娘を世話した男衆でね。手に弁当を一つ持っていました。
(はいよ、お弁当、)と云って、娘に差出して、渡そうとしたっけが……」

       十一

「そこに私も居る、……知らぬ間に肥満女《ふとっちょ》の込入ったのと、振向いた娘の顔とを等分に見較べて(和女《あんた》、極《きまり》が悪いやろ。そしたら私《わし》が方へ来て食《あが》りなはるか。ああ、そうしなはれ、)と莞爾々々《にこにこ》笑う、気の可《い》い男さ。(太《えら》いお邪魔にござります。)と、屈《かが》んで私に挨拶して、一人で合点して弁当を持ったまま、ずいと引退《ひきさが》った。
 娘がね、仕切に手を支《つ》くと、向直って、抜いた花簪《はなかんざし》を載せている、涙に濡れた、細《ほっそ》り畳んだ手拭《てぬぐい》を置いた、友染の前垂れの
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