うな我儘をされるんです。身体《からだ》を売って栄耀《えよう》栄華さ、それが浅ましいと云うんじゃないか。」
「ですがね、」
 と男衆は、雪駄《せった》ちゃらちゃら、で、日南《ひなた》の横顔、小首を捻《ひね》って、
「我儘も品《しな》によりまさ。金剛石《ダイヤモンド》や黄金鎖《きんぐさり》なら妾《めかけ》の身じゃ、我儘という申立てにもなりませんがね。
 自動車のプウプウも血の道に触《さわ》るか何かで、ある時なんざ、奴《やっこ》の日傘で、青葉時に、それ女大名の信長公でさ。鳴かずんば鳴かして見しょう、日中《ひなか》に時鳥《ほととぎす》を聞くんだ、という触込《ふれこ》みで、天王寺へ練込みましたさ、貴方。
 幇間《たいこもち》が先へ廻って、あの五重の塔の天辺《てっぺん》へ上って、わなわな震えながら雲雀笛《ひばりぶえ》をピイ、はどうです。
 そんな我儘より、もっと偉いのは、しかもその日だって云うんですがね。
 御堂《みどう》横から蓮《はす》の池へ廻る広場《ひろっぱ》、大銀杏《おおいちょう》の根方に筵《むしろ》を敷いて、すととん、すととん、と太鼓を敲《たた》いて、猿を踊らしていた小僧を、御寮人お珊の方
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