思った。
可哀《あわれ》を留《とど》めたのは取巻連さ。
夢中になって、芝居を見ながら、旦那が喚《わめ》くたびに、はっとするそうで、皆《みんな》が申合わせた形で、ふらりと手を挙げる。……片手をだよ。……こりゃ、私の前を塞《ふさ》いだ肥満女《ふとっちょ》も同じく遣った。
その癖、黙然《だんまり》でね、チトもしお静《しずか》に、とも言い得ない。
すると、旦那です……(馬鹿め、止《や》めちまえ、)と言いながら、片手づきの反身《そりみ》の肩を、御寮人さ、そのお珊の方の胸の処へ突《つき》つけて、ぐたりとなった。……右の片手を逆に伸して、引合せたコオトの襟を引掴《ひッつか》んで、何か、自分の胸が窮屈そうに、こう※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いて、引開《ひっぱだ》けようとしたんだがね、思う通りにならなかったもんだから、(ええ)と云うと、かと開《はだ》けた、細い黄金鎖《きんぐさり》が晃然《きらり》と光る。帯を掴んで、ぐい、と引いて、婦《おんな》の膝を、洋服の尻へ掻込《かいこ》んだりと思うと、もろに凭懸《もたれかか》った奴が、ずるずると辷《すべ》って、それなり真仰向《まあお
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