どろんと濁って血走ってら。ぐしゃぐしゃ見上げ皺《しわ》が揉上《もみあが》って筋だらけ。その癖、すぺりと髯《ひげ》のない、まだ三十くらい、若いんです。
(はいはい、たった今、直《じ》きに、)とひょこひょこと敷居に擦附ける、若衆は叩頭《おじぎ》をしいしい、(御寮人様、行届きまへん処は、何分、)と、こう内証で云った。
その御寮人と云われた、……旦那の背後《うしろ》に、……髪はやっぱり銀杏返しだっけ……お召の半コオトを着たなりで控えたのが、」
「へい、成程、背後《うしろ》に居ました。」
「お珊の方《かた》かね、天満橋で見た先刻《さっき》のだ。もっとも東の雛壇《ひなだん》をずらりと通して、柳桜が、色と姿を競った中にも、ちょっとはあるまいと思う、容色《きりょう》は容色と見たけれども、歯痒《はがゆ》いほど意気地《いくじ》のない、何て腑《ふ》の抜けた、と今日より十段も見劣りがしたって訳は。……
いずれ妾《めかけ》だろう。慰まれものには違いないが、若い衆も、(御寮人、)と奉って、何分、旦那を頼む、と云う。
取巻きの芸妓《げいしゃ》たち、三人五人の手前もある。やけに土砂を振掛けても、突張《つッぱり》
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