背後《うしろ》に、島田やら、銀杏返《いちょうがえ》しやら、累《かさな》って立った徒《てあい》は、右の旦那よりか、その騒ぎだから、皆《みんな》が見返る、見物の方へ気を兼ねたらしく、顔を見合わせていたっけが。
この一喝を啖《くら》うと、べたべたと、蹴出《けだ》しも袖も崩れて坐った。
大切な客と見えて、若衆《わかいしゅ》が一人、女中が二人、前茶屋のだろう、附いて来た。人数《にんず》は六人だったがね。旦那が一杯にのしてるから、どうして入り切れるもんじゃない。随分|肥《ふと》ったのも、一人ならずさ。
茶屋のがしきりに、小声で詫《わび》を云って叩頭《おじぎ》をしたのは、御威勢でもこの外に場所は取れません、と詫びたんだろう。(構いまへんで、お入りなされ。)
まずい口真似だ、」
初阪は男衆の顔を見て微笑《ほほえ》んだが、
「そう云って、茶屋の男が、私に言《ことば》も掛けないで、その中でも、なかんずく臀《しり》の大きな大年増を一人、こっちの場所へ送込んだ。するとまたその婦《おんな》が、や、どッこいしょ、と掛声して、澄まして、ぬっと入って、ふわりと裾埃《すそごみ》で前へ出て、正面|充満《いっぱい
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