ん。」
「私は例のかと思った、……」
「ありゃ天満の亀《かめ》の子煎餅《こせんべい》、……成程亀屋の隠居でしょう。誰が、貴方、あんな婆さんが禁厭《まじない》の蛇なんぞを、」
「ははあ、少《わか》いものでなくっちゃ、利かないかね。」
「そりゃ……色恋の方ですけれど……慾《よく》の方となると、無差別ですから、老年《としより》はなお烈しいかも知れません。
分けてこの二三日は、黒焼屋の蛇が売れ盛るって言います……誓文払《せいもんばらい》で、大阪中の呉服屋が、年に一度の大見切売をしますんでね、市中もこの通りまた別して賑《にぎわ》いまさ。
心斎橋筋の大丸なんかでは、景物の福引に十両二十両という品ものを発奮《はず》んで出しますんで、一番引当てよう了簡《りょうけん》で、禁厭《まじない》に蛇の袋をぶら下げて、杖を支《つ》いて、お十夜という形で、夜中に霜を踏んで、白髪《しらが》で橋を渡る婆さんもあるにゃあるんで。」
六
男衆もちょっと町中《まちなか》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》した。
「まったくかも知れません、何しろ、この誓文払の前後に、何千|条《すじ》で
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