た、長いのが一|尾《ぴき》、蛇ですよ。畝々《うねうね》と巻込めてあった、そいつが、のッそり、」と慌《あわただ》しい懐手、黒八丈を襲《かさ》ねた襟から、拇指《おやゆび》を出して、ぎっくり、と蝮《まむし》を拵《こさ》えて、肩をぶるぶると遣って引込《ひっこ》ませて、
「鎌首を出したはどうです、いや聞いても恐れる。」とばたばたと袖を払《はた》く。
 初阪もそれはしかねない婦《おんな》と見た。
「執念の深いもんだから、あやかる気で、生命《いのち》がけの膚《はだ》に絡《まと》ったというわけだ。」
「それもあります。ですがね、心願も懸けたんですとさ。何でも願が叶《かな》うと云います……咒詛《のろい》も、恋も、情《なさけ》も、慾《よく》も、意地張も同じ事。……その時|鳩尾《みずおち》に巻いていたのは、高津《こうづ》辺の蛇屋で売ります……大瓶《おおがめ》の中にぞろぞろ、という一件もので、貴方御存じですか。」
 初阪は出所を聞くと悚然《ぞっ》とした。我知らず声を潜《ひそ》めて、
「知ッてる……生紙《きがみ》の紙袋《かんぶくろ》の口を結えて、中に筋張った動脈のようにのたくる奴《やつ》を買って帰って、一晩内に
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