町《しんまち》、堀江が、一つ舞台で、芸較べを遣《や》った事があります。その時、南から舞で出ました。もっとも評判な踊手なんですが、それでも他《ほか》場所の姉さんに、ひけを取るまい。……その頃北に一人、向うへ廻わして、ちと目に余る、家元随一と云う名取りがあったもんですから、生命《いのち》がけに気を入れて、舞ったのは道成寺《どうじょうじ》。貴方、そりゃ近頃の見ものだったと評判しました。
能がかりか、何か、白の鱗《うろこ》の膚脱《はだぬ》ぎで、あの髪を颯《さっ》と乱して、ト撞木《しゅもく》を被《かぶ》って、供養の鐘を出た時は、何となく舞台が暗くなって、それで振袖の襦袢《じゅばん》を透いて、お珊さんの真白《まっしろ》な胸が、銀色に蒼味《あおみ》がかって光ったって騒ぎです。
そのかわり、火のように舞い澄まして楽屋へ入ると、気を取詰めて、ばったり倒れた。後見が、回生剤《きつけ》を呑まそうと首を抱く。一人が、装束の襟を寛《くつろ》げようと、あの人の胸を開けたかと思うと、キャッと云って尻持をついたはどうです。
鳩尾《みずおち》を緊《し》めた白羽二重《しろはぶたえ》の腹巻の中へ、生々《なまなま》とし
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