》へ帰る旅人に、怪しい手箱を託《ことづ》けたり、俵藤太《たわらとうだ》に加勢を頼んだりする人に似たように思ったのだね。
由来、橋の上で出会う綺麗な婦《おんな》は、すべて凄《すご》いとしてある。――
が、場所によるね……昨夜《ゆうべ》、隣桟敷で見た時は、同じその人だけれど、今思うと、まるで、違った婦《おんな》さ。……君も関東ものだから遠慮なく云うが、阪地《かみがた》の婦《おんな》はなぜだろう、生きてるのか、死んでるのか、血というものがあるのか知らん、と近所に居るのも可厭《いや》なくらい、酷《ひど》く、さました事があったんだから……」
「へい、何がございました。やたらに何か食べたんですかい。」
「何、詰《つま》らんことを……そうじゃない。余りと言えば見苦しいほど、大入芝居の桟敷だというのに、旦那かね、その連《つれ》の男に、好三昧《すきざんまい》にされてたからさ。」
「そこは妾《てかけ》ものの悲しさですかね。どうして……当人そんなぐうたらじゃない筈《はず》です。意地張《いじッぱ》りもちっと可恐《こわ》いような婦《おんな》でね。以前、芸妓《げいしゃ》で居ました時、北新地《きたのしんち》、新
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