したいばかりに、素晴らしく派手を遣《や》って、披露《ひろめ》をしたんだって評判です。
 その市女《いちめ》は、芸妓《げいこ》に限るんです。それも芸なり、容色《きりょう》なり、選抜《えりぬ》きでないと、世話人の方で出しませんから……まず選ばれた婦《おんな》は、一年中の外聞といったわけです。
 その中のお職だ、貴方。何しろ大阪じゃ、浜寺の魚市には、活《い》きた竜宮が顕《あらわ》れる、この住吉の宝市には、天人の素足が見えるって言います。一年中の紋日《もんび》ですから、まあ、是非お目に掛けましょう。
 貴方、一目見て立《たち》すくんで、」
「立すくみは大袈裟《おおげさ》だね、人聞きが悪いじゃないか。」
「だって、今でさえ、悚然《ぞっと》なすったじゃありませんかね。」

       四

 男衆の浮かせ調子を、初阪はなぜか沈んで聞く。……
「まったくそりゃ悚然《ぞっ》としたよ。ひとりでに、あの姿が、城の中へふいと入って、向直って、こっちを見るらしい気がした時は。
 黒い煙も、お珊さんか、……その人のために空に被《かぶ》さったように思って。
 天満の鉄橋は、瀬多の長橋ではないけれども、美濃《みの
前へ 次へ
全104ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング