の欄干袖振掛けて、という姿ぐらいではありません。貴方、もっと立派なお土産を御覧なさいましょうよ。御覧なさいまし、明日、翌々日《あさって》の晩は、唯今のお珊の方が、千日前から道頓堀、新地をかけて宝市の練《ねり》に出て、下げ髪、緋の袴《はかま》という扮装《なり》で、八年ぶりで練りますから。」
 一言《ひとこと》、下げ髪、緋の袴、と云ったのが、目のあたり城の上の雲を見た、初阪の耳を穿《うが》って響いた。
「何、下げ髪で、緋の袴?……」
「勿論一人じゃありません――確か十二人、同じ姿で揃って練ります。が、自分の髪を入髪《いれげ》なしに解《とき》ほぐして、その緋の袴と擦れ擦れに丈に余るってのは、あの婦《おんな》ばかりだと云ったもんです。一度引いて、もうそんなに経《た》ちますけれども、私《わっし》あ今日も、つい近間で見て驚きました。
 苦労も道楽もしたろうのに、雁金額《かりがねびたい》の生際《はえぎわ》が、一厘だって抜上がっていませんやね、ねえ。
 やっぱり入髪なしを水で解いて、宝市は屋台ぐるみ、象を繋《つな》いで曳《ひ》きましょうよ。
 旦那もね、市に出して、お珊さんのその姿を、見たり、見せたり
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