の一族が、それか、あらぬか、あの雲、あの土の下に眠った事を、昔話のように聞いていた。
――家は、もと川越《かわごえ》の藩士である。御存じ……と申出るほどの事もあるまい。石州浜田六万四千石……船つきの湊《みなと》を抱えて、内福の聞こえのあった松平|某氏《なにがし》が、仔細《しさい》あって、ここの片原五万四千石、――遠僻《えんぺき》の荒地に国がえとなった。後に再び川越に転封《てんぽう》され、そのまま幕末に遭遇した、流転の間に落ちこぼれた一藩の人々の遺骨、残骸《ざんがい》が、草に倒れているのである。
心ばかりの手向《たむけ》をしよう。
不了簡《ふりょうけん》な、凡杯も、ここで、本名の銑吉《せんきち》となると、妙に心が更《あらた》まる。煤《すす》の面《つら》も洗おうし、土地の模様も聞こうし……で、駅前の旅館へ便《たよ》った。
「姉さん、風呂には及ばないが、顔が洗いたい。手水《ちょうず》……何、洗面所を教えておくれ。それから、午飯《おひる》を頼む。ざっとでいい。」
二階座敷で、遅めの午飯を認《したた》める間に、様子を聞くと、めざす場所――片原は、五里半、かれこれ六里遠い。――
鉄道はあ
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