燈明之巻
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蝮《まむし》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)松平|某氏《なにがし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《えい》
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一
「やあ、やまかがしや蝮《まむし》が居《お》るぞう、あっけえやつだ、気をつけさっせえ。」
「ええ。」
何と、足許《あしもと》の草へ鎌首が出たように、立すくみになったのは、薩摩絣《さつまがすり》の単衣《ひとえ》、藍鼠《あいねずみ》無地の絽《ろ》の羽織で、身軽に出立《いでた》った、都会かららしい、旅の客。――近頃は、東京でも地方でも、まだ時季が早いのに、慌てもののせいか、それとも値段が安いためか、道中の晴の麦稈帽《むぎわらぼう》。これが真新しいので、ざっと、年よりは少《わか》く見える、そのかわりどことなく人体《にんてい》に貫目のないのが、吃驚《びっくり》した息もつかず、声を継いで、
「驚いたなあ、蝮は弱っ
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