》。少し変った処といえば、獅子狩《ししがり》だの、虎狩だの、類人猿の色のもめ事などがほとんど毎月の雑誌に表われる……その皆がみんな朝夷《あさひな》島めぐりや、おそれ山の地獄話でもないらしい。
最近も、私を、作者を訪ねて見えた、学校を出たばかりの若い人が、一月ばかり、つい御不沙汰《ごぶさた》、と手軽い処が、南洋の島々を渡って来た。……ピイ、チョコ、キイ、キコと鳴く、青い鳥だの、黄色な鳥だの、可愛らしい話もあったが、聞く内にハッと思ったのは、ある親島から支島《えだじま》へ、カヌウで渡った時、白熱の日の光に、藍《あい》の透通る、澄んで静かな波のひと処、たちまち濃い萌黄《もえぎ》に色が変った。微風も一繊雲もないのに、ゆらゆらとその潮が動くと、水面に近く、颯《さっ》と黄薔薇《きばら》のあおりを打った。その大《おおき》さ、大洋の只中《ただなか》に計り知れぬが、巨大なる※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《えい》の浮いたので、近々と嘲《あざ》けるような黄色な目、二丈にも余る青い口で、ニヤリとしてやがて沈んだ。海の魔宮の侍女であろう。その消えた後も、人の目の幻に、船の帆は少時《しばし》その萌黄
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