きり、寄りつかぬ。中でも活溌なのは、お誓さんでなくってはねえ、ビイーと外《そ》れてしまう。またそのお誓はお誓で、まず、ほかほかへ皿小鉢、銚子《ちょうし》を運ぶと、お門《かど》が違いましょう。で、知りませんと、鼻をつまらせ加減に、含羞《はにか》んで、つい、と退《の》くが、そのままでは夜這星の方へ来にくくなって、どこへか隠れる。ついお銚子が遅くなって、巻煙草の吸殻ばかりが堆《うずたか》い。
何となく、ために気がとがめて、というのが、会が月の末に当るので、懐中《ふところ》勘定によったかも分らぬ。一度、二度と間を置くうち、去年七月の末から、梅水が……これも近頃各所で行われる……近くは鎌倉、熱海。また軽井沢などへ夏季の出店《でみせ》をする。いやどこも不景気で、大したほまちにはならないそうだけれど、差引一ぱいに行けば、家族が、一夏避暑をする儲けがある。梅水は富士の裾野《すその》――御殿場へ出張した。
そこへ、お誓が手伝いに出向いたと聞いて、がっかりして、峰は白雪、麓《ふもと》は霞だろう、とそのまま夜這星の流れて消えたのが――もう一度いおう――去年の七月の末頃であった。
この、六月――いまに至
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