。当てると、そのまくれた二の腕に、お誓の膚《はだ》が透通って、真白《まっしろ》に見えたというのである。
銑吉の馬鹿を表わすより、これには、お誓の容色の趣を偲《しの》ばせるものがあるであろう。
ざっと、かくの次第であった処――好事魔多しというではなけれど、右の溌猴《わるざる》は、心さわがしく、性急だから、人さきに会《あい》に出掛けて、ひとつ蛇の目を取巻くのに、度《たび》かさなるに従って、自然とおなじ顔が集るが、星座のこの分野に当っては、すなわち夜這星《よばいぼし》が真先《まっさき》に出向いて、どこの会でも、大抵|点燈頃《ひともしごろ》が寸法であるのに、いつも暮まえ早くから大広間の天井下に、一つ光って……いや、光らずに、ぽつんと黒く、流れている。
勿論、ここへお誓が、天女の装《よそおい》で、雲に白足袋で出て来るような待遇では決してない。
その愚劣さを憐《あわれ》んで、この分野の客星たちは、他《ほか》より早く、輝いて顕《あら》われる。輝くばかりで、やがて他の大一座が酒池肉林となっても、ここばかりは、畳に蕨《わらび》が生えそうに見える。通りかかった女中に催促すると、は、とばかりで、それ
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