《ひゆきょう》にでもお求めありたい。ここでは手近な絵本西遊記で埒《らち》をあける。が、ただ先哲、孫呉空は、※[#「虫+焦」、第4水準2−87−89]螟虫《ごまむし》と変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑《ぞうふ》を抉《えぐ》るのである。末法の凡俳は、咽喉《のど》までも行かない、唇に触れたら酸漿《ほおずき》の核《たね》ともならず、溶《とろ》けちまおう。
ついでに、おかしな話がある。六七人と銑吉がこの近所の名代の天麸羅《てんぷら》で、したたかに食《くら》い且つ飲んで、腹こなしに、ぞろぞろと歩行《あるき》出して、つい梅水の長く続いた黒塀に通りかかった。
盛り場でも燈《ともしび》を沈め、塀の中は植込で森《しん》と暗い。処で、相談を掛けてみたとか、掛けてみるまでもなかったとかいう。……天麸羅のあとで、ヒレの大切れのすき焼は、なかなか、幕下でも、前頭でも、番附か逸話に名の出るほどの人物でなくてはあしらい兼ねる。素通りをすることになった。遺憾さに、内は広し、座敷は多し、程は遠い……
「お誓さん。」
黒塀を――惚れた女に洋杖《ステッキ》は当てられない――斜《ななめ》に、トンと腕で当てた
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