種彦作、歌川国貞|画《えがく》――奇妙頂礼《きみょうちょうらい》地蔵の道行――を、ご一覧になるがいい。
 通り一遍の客ではなく、梅水の馴染《なじみ》で、昔からの贔屓《ひいき》連が、六七十人、多い時は百人に余る大一座で、すき焼で、心置かず隔てのない月並の会……というと、俳人には禁句らしいが、そこらは凡杯で悟っているから、一向に頓着《とんじゃく》しない。先輩、また友達に誘われた新参で。……やっと一昨年の秋頃だから、まだ馴染も重ならないのに、のっけから岡惚れした。
「お誓さん。」
「誓ちゃん。」
「よう、誓の字。」
 いや、どうも引手あまたで。大連が一台ずつ、黒塗り真円《まんまる》な大円卓を、ぐるりと輪形に陣取って、清正公には極内《ごくない》だけれども、これを蛇の目の陣と称《とな》え、すきを取って平らげること、焼山越《やけやまごえ》の蠎蛇《うわばみ》の比にあらず、朝鮮|蔚山《うるさん》の敵軍へ、大砲を打込むばかり、油の黒煙を立てる裡《なか》で、お誓を呼立つること、矢叫びに相斉《あいひと》しい。名を知らぬものまで、白く咲いて楚々《そそ》とした花には騒ぐ。
 巨匠にして、超人と称えらるる、ある洋
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