頬が、白く、涼しい。
「見せろよ。」
低い声の澄んだ調子で、
「ほほほ。」
と莞爾《にっこり》。
その口許の左へ軽くしまるのを見るがいい。……座敷へ持出さないことは言うまでもない。
色気の有無《ほど》が不可解である。ある種のうつくしいものは、神が惜《おし》んで人に与えない説がある。なるほどそういえば、一方円満柔和な婦人に、菩薩相《ぼさつそう》というのがある。続いて尼僧顔がないでもあるまい。それに対して、お誓の処女づくって、血の清澄明晰《せいしょうめいせき》な風情に、何となく上等の神巫《みこ》の麗女《たおやめ》の面影が立つ。
――われ知らず、銑吉のかくれた意識に、おのずから、毒虫の毒から救われた、うつくしい神巫《おみこ》の影が映るのであろう。――
おお美わしのおとめよ、と賽銭《さいせん》に、二百金、現に三百金ほどを包んで、袖に呈《てい》するものさえある。が、お誓はいつも、そのままお帳場へ持って下って、おかみさんの前で、こんなもの。すぐ、おかみさんが、つッと出て、お給仕料は、お極《きま》りだけ御勘定の中に頂いてありますから。……これでは、玉の手を握ろう、紅《もみ》の袴《はかま》
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