とも孤児《みなしご》同然だとのこと、都にしかるべき身内もない。そのせいか、沈んだ陰気な質《たち》ではないが、色の、抜けるほど白いのに、どこか寂しい影が映る。膚《はだ》をいえば、きめが細《こまか》く、実際、手首、指の尖《さき》まで化粧をしたように滑らかに美しい。細面で、目は、ぱっちりと、大きくないが張《はり》があって、そして眉が優しい。緊《しま》った口許《くちもと》が、莞爾《にっこり》する時ちょっとうけ口のようになって、その清い唇の左へ軽く上るのが、笑顔ながら凜《りん》とする。総てが薄手で、あり余る髪の厚ぼったく見えないのは、癖がなく、細く、なよなよとしているのである。緋《ひ》も紅も似合うものを、浅葱だの、白の手絡《てがら》だの、いつも淡泊《あっさり》した円髷《まるまげ》で、年紀《とし》は三十を一つ出た。が、二十四五の上には見えない。一度五月の節句に、催しの仮装の時、水髪の芸子島田に、青い新藁《しんわら》で、五尺の菖蒲《あやめ》の裳《もすそ》を曳《ひ》いた姿を見たものがある、と聞く。……貴殿はいい月日の下に生れたな、と言わねばならぬように思う。あるいは一度新橋からお酌で出たのが、都合で、
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