#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さ》びさせない腕を研《みが》いて、吸ものの運びにも女中の裙《すそ》さばきを睨《にら》んだ割烹《かっぽう》。震災後も引続き、黒塀の奥深く、竹も樹も静まり返って客を受けたが、近代のある世態では、篝火船《かがりぶね》の白魚より、舶来の塩鰯《しおいわし》が幅をする。正月飾りに、魚河岸に三個《みッつ》よりなかったという二尺六寸の海老《えび》を、緋縅《ひおどし》の鎧《よろい》のごとく、黒松の樽に縅した一騎|駈《がけ》の商売では軍《いくさ》が危い。家の業が立ちにくい。がらりと気を替えて、こうべ肉のすき焼、ばた焼、お望み次第に客を呼んで、抱一《ほういつ》上人の夕顔を石燈籠《いしどうろう》の灯でほの見せる数寄屋《すきや》づくりも、七賢人の本床に立った、松林の大広間も、そのままで、びんちょうの火を堆《うずたか》く、ひれの膏《あぶら》を※[#「赭のつくり/火」、第3水準1−87−52]《に》る。
この梅水のお誓は、内の子、娘分であるという。来たのは十三で、震災の時は十四であった。繰返していうでもあるまい――あの炎の中を、主人の家《うち》を離れないで、勤め続けた。もっ
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