みちおしえは、誰も触らねえ事にしてあるにはあるだよ。」
「だから、つい、声も掛けようではないか。」
「鷺の鳥はどうしただね。」
「お爺さん、それは見ていなかったかい。」
「なまけもんだ、陽気のよさに、あとはすぐとろとろだ。あの潰屋《つぶれや》の陰に寝ころばっておったもんだでの。」
白鷺はやがて羽を開いた。飛ぶと、宙を翔《かけ》る威力には、とび退《しさ》る虫が嘴《くちばし》に消えた。雪の蓑毛《みのけ》を爽《さわやか》に、もとの流《ながれ》の上に帰ったのは、あと口に水を含んだのであろうも知れない。諸羽《もろはね》を搏《う》つと、ひらりと舞上る時、緋牡丹の花の影が、雪の頸《うなじ》に、ぼっと沁《し》みて薄紅《うすくれない》がさした。そのまま山の端《は》を、高く森の梢《こずえ》にかくれたのであった。
「あの様子では確《たしか》に呑んだよ、どうも殺《や》られたろうと思うがね。」
爺《じい》は股引《ももひき》の膝を居直って、自信がありそうに云った。
「うんや、鳥は悧巧《りこう》だで。」
「悧巧な鳥でも、殺生石には斃《おち》るじゃないか。」
「うんや、大丈夫でがすべよ。」
「が、見る見るあの白い
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