顔が二つになったほど幅ったく重い。やあ、獅子《しし》のような面《つら》だ、鬼の面《めん》だ、と小児《こども》たちに囃《はや》されて、泣いたり怒ったり。それでも遊びにほうけていると、清らかな、上品な、お神巫《みこ》かと思う、色の白い、紅《もみ》の袴《はかま》のお嬢さんが、祭の露店に売っている……山葡萄《やまぶどう》の、黒いほどな紫の実を下すって――お帰んなさい、水で冷すのですよ。
――で、駆戻ると、さきの親類では吃驚《びっくり》して、頭を冷して寝かしたんだがね。客が揃って、おやじ……私の父が来たので、御馳走《ごちそう》の膳《ぜん》の並んだ隣へ出て坐った処、そこらを視《み》て、しばらくして、内の小僧は?……と聞くんだね。袖の中の子が分らないほど、面《つら》が鬼になっていたんです。おやじの顔色が変ると、私も泣出した。あとをよくは覚えていないんだが、その山葡萄を雫《しずく》にして、塗ったり吸ったりして無事に治った……虫は斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]だった事はいうまでもないのです。」
「何と、はあ、おっかねえもんだ、なす。知らねえ虫じゃねえでがすが、……もっとも、あの、
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