かも、こっちを、銑吉の方を向いて、髯《ひげ》をぴちぴちと動かす。一疋七八分にして、躯《み》は寸に足りない。けれども、羽に碧緑《あおみどり》の艶《つや》濃く、赤と黄の斑《ふ》を飾って、腹に光のある虫だから、留った土が砥《と》になって、磨いたように燦然《さんぜん》とする。葛上亭長《まめ》、芫青《あお》、地胆《つち》、三種合わせた、猛毒、膚《はだえ》に粟《あわ》すべき斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]《はんみょう》の中《うち》の、最も普通な、みちおしえ、魔の憑《つ》いた宝石のように、※[#「火+玄」、第3水準1−87−39]燿《ぎらぎら》と招いていた。
「――こっちを襲って来るのではない。そこは自然の配剤だね。人が進めば、ひょいと五六尺|退《しさ》って、そこで、また、おいでおいでをしているんだ。碧緑赤黄の色で誘うのか知らん。」
 蜻蛉では勿論ない。それを狙っているらしい。白鷺が、翼を開くまでもなかった。牡丹の花の影を、きれいな水から、すっと出て、斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]の前へ行《ゆ》くと思うと、約束通り、前途《むこう》へ退《さが》った。人間に対す
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