った落葉に埋《うも》れている。青芒《あおすすき》の茂った、葉越しの谷底の一方が、水田に開けて、遥々《はるばる》と連る山が、都に遠い雲の形で、蒼空《あおぞら》に、離れ島かと流れている。
 割合に土が乾いていればこそで――昨日《きのう》は雨だったし――もし湿地だったら、蝮、やまかがしの警告がないまでも、うっかり一歩も入《い》れなかったであろう。
 それでもこれだけ分入《わけい》るのさえ、樹の枝にも、卒都婆にも、苔《こけ》の露は深かった。……旅客の指の尖《さき》は草の汁に青く染まっている。雑樹《ぞうき》の影が沁《し》むのかも知れない。
 蝙蝠《こうもり》が居そうな鼻の穴に、煙は残って、火皿に白くなった吸殻を、ふっふっと、爺は掌《てのひら》の皺《しわ》に吹落し、眉をしかめて、念のために、火の気のないのを目でためて、吹落すと、葉末にかかって、ぽすぽすと消える処を、もう一つ破草履《やれぞうり》で、ぐいと踏んで、
「ようござらっせえました、御参詣《ごさんけい》でがすかな。」
「さあ……」
 と、妙な返事をする。
「南無《なむ》、南無、何かね、お前様、このお墓に所縁の方でがんすかなす。」
 胡桃《くる
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