その頸窪《ぼんのくぼ》のあたりに、古寺の破廂《やれびさし》を、なめくじのように這《は》った。
「弱え人だあ。」
「頼むよ――こっちは名僧でも何でもないが、爺さん、爺さんを……導きの山の神と思うから。」
「はて、勿体《もったい》もねえ、とんだことを言うなっす。」
と両《ふた》つ提《さげ》の――もうこの頃では、山の爺が喫《の》む煙草がバットで差支えないのだけれど、事実を報道する――根附《ねつけ》の処を、独鈷《とっこ》のように振りながら、煙管《きせる》を手弄《てなぶ》りつつ、ぶらりと降りたが、股引《ももひき》の足拵《あしごしら》えだし、腰達者に、ずかずか……と、もう寄った。
「いや、御苦労。」
と一基の石塔の前に立並んだ、双方、膝の隠れるほど草深い。
実際、この卵塔場は荒れていた。三方崩れかかった窪地の、どこが境というほどの杭《くい》一つあるのでなく、折朽《おれく》ちた古卒都婆《ふるそとば》は、黍殻《きびがら》同然に薙伏《なぎふ》して、薄暗いと白骨に紛れよう。石碑も、石塔も、倒れたり、のめったり、台に据っているのはほとんどない。それさえ十ウの八つ九つまでは、ほとんど草がくれなる上に、積
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