を提げて墓詣《はかまいり》をするのは、事務を扱うようで気がさしたからであった。
 今もある。……木魚の下に、そのままの涼しい夏草と、ちょろはげの鞄とを見較《みくら》べながら、
「――またその何ですよ。……待っていられては気忙《きぜわ》しいから、帰りは帰りとして、自然、それまでに他《ほか》の客がなかったらお世話になろう。――どうせ隙《ひま》だからいつまでも待とうと云うのを――そういってね、一旦《いったん》運転手に分れた――こっちの町|尽頭《はずれ》の、茶店……酒場《バア》か。……ざっとまあ、饂飩屋《うどんや》だ。それからは、見た目にも道わるで、無理に自動車を通した処で、歩行《ある》くより難儀らしいから下りたんですがね――饂飩酒場《うどんバア》の女給も、女房《かみ》さんらしいのも――その赤い一行は、さあ、何だか分らない、と言う。しかし、お小姓に、太刀のように鉄砲を持たしていれば、大将様だ。大方、魔ものか、変化にでも挨拶《あいさつ》に行《ゆ》くのだろう、と言うんです。
 魔ものだの、変化だのに、挨拶は変だ、と思ったが、あとで気がつくと、女|連《れん》は、うわさのある怪しいことに、恐しく怯《お
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