ットが鎌首によく似ている。
見る間に、山腹の真黒《まっくろ》な一叢《ひとむら》の竹藪《たけやぶ》を潜《くぐ》って隠れた時、
「やーい。」
「おーい。」
ヒュウ、ヒュウと幽《かすか》に聞こえた。なぜか、その笛に魅せられて、少年等が、別の世、別の都、別の町、あやしきかくれ里へ攫《さら》われて行《ゆ》きそうで、悪酒に酔ったように、凡杯の胸は塞《ふさが》った。
自動車たるべきものが、スピイドを何とした。
茫然《ぼうぜん》とした状《さま》して、運転手が、汚れた手袋の指の破れたのを凝《じっ》と視《み》ている。――掌に、銀貨が五六枚、キラキラと光ったのであった。
「――お爺さん、何だろうね。」
「…………」
「私も、運転手も、現に見たんだが。」
「さればなす……」
と、爺さんは、粉煙草《こなたばこ》を、三度ばかりに火皿の大きなのに撮《つま》み入れた。
……根太の抜けた、荒寺の庫裡《くり》に、炉の縁で。……
三
西明寺《さいみょうじ》――もとこの寺は、松平氏が旧領石州から奉搬の伝来で、土地の町村に檀家《だんか》がない。従って盆暮のつけ届け、早い話がおとむらい一つない。
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