も、補助席二脚へ揉合《もみあ》って[#「揉合《もみあ》って」は底本では「揉合《もみあ》つて」]乗ると斉《ひと》しく、肩を組む、頬を合わせる、耳を引張《ひっぱ》る、真赤《まっか》な洲浜形《すはまがた》に、鳥打帽を押合って騒いでいたから。
 戒《いましめ》は顕われ、しつけは見えた。いまその一弾指のもとに、子供等は、ひっそりとして、エンジンの音|立処《たちどころ》に高く響くあるのみ。その静《しずか》さは小県ただ一人の時よりも寂然《ひっそり》とした。
 なぜか息苦しい。
 赤い客は咳《しわぶき》一つしないのである。
 小県は窓を開放って、立続《たてつ》けて巻莨《まきたばこ》を吹かした。
 しかし、硝子《がらす》を飛び、風に捲《ま》いて、うしろざまに、緑林に靡《なび》く煙は、我が単衣《ひとえ》の紺のかすりになって散らずして、かえって一抹《いちまつ》の赤気《せっき》を孕《はら》んで、異類異形に乱れたのである。
「きみ、きみ、まだなかなかかい。」
「屋根が見えるでしょう――白壁が見えました。」
「留まれ。」
 その町の端頭《はずれ》と思う、林道の入口の右側の角に当る……人は棲《す》まぬらしい、壊屋《
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