も※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》るのに、引導を渡されでもしたようで、腹へ風が徹《とお》って、ぞッとした。
 すなわち、手を挙げるでもなし、声を掛けるでもなし、運転手に向ってもまた合掌した。そこで車を留めたが、勿論、拝む癖に傲然《ごうぜん》たる態度であったという。それもあとで聞いたので、小県がぞッとするまで、不思議に不快を感じたのも、赤い闖入者《ちんにゅうしゃ》が、再び合掌して席へ着き、近々と顔を合せてからの事であった。樹から湧こうが、葉から降ろうが、四人の赤い子供を連れた、その意匠、右の趣向の、ちんどん屋……と奥筋でも称《とな》うるかどうかは知らない、一種広告隊の、林道を穿《うが》って、赤五点、赤長短、赤大小、点々として顕われたものであろう、と思ったと言うのである。
 が、すぐその間違いが分った。客と、銑吉との間へ入って腰を掛けた、中でも、脊のひょろりと高い、色の白い美童だが、疳《かん》の虫のせいであろう、……優しい眉と、細い目の、ぴりぴりと昆虫の触角のごとく絶えず動くのが、何の級に属するか分らない、折って畳んだ、猟銃の赤なめしの袋に包んだのを肩に斜《ななめ》に
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