を着込んだのが、緋《ひ》の法衣《ころも》らしい、坊主袖の、ぶわぶわするのを上に絡《まと》って、脛《すね》を赤色の巻きゲエトル。赤革の靴を穿《は》き、あまつさえ、リボンでも飾った状《さま》に赤木綿の蔽《おおい》を掛け、赤い切《きれ》で、みしと包んだヘルメット帽を目深《まぶか》に被った。……
 頤骨《あごぼね》が尖《とが》り、頬がこけ、無性髯《ぶしょうひげ》がざらざらと疎《あら》く黄味を帯び、その蒼黒《あおぐろ》い面色《かおいろ》の、鈎鼻《かぎばな》が尖って、ツンと隆《たか》く、小鼻ばかり光沢《つや》があって蝋色《ろういろ》に白い。眦《まなじり》が釣り、目が鋭く、血の筋が走って、そのヘルメット帽の深い下には、すべての形容について、角が生えていそうで不気味に見えた。
 この頭目、赤色《せきしょく》の指導者が、無遠慮に自動車へ入ろうとして、ぎろりと我が銑吉を視《み》て、胸《むな》さきで、ぎしと骨張った指を組んで合掌した……変だ。が、これが礼らしい。加うるに慇懃《いんぎん》なる会釈だろう。けれども、この恭屈頂礼をされた方は――また勿論されるわけもないが――胸を引掻《ひっか》いて、腸《はらわた》で
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