るが、三太やあい、迷《まい》イ児《ご》の迷イ児の三太やあいと、鉦《かね》を叩いて山の裾を廻る声だの、百万遍の念仏などは余り結構なものではありませんな。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》……南無阿弥陀……南無阿弥陀。
亭主はさぞ勝手で天窓《あたま》から夜具をすっぽりであろうと、心に可笑《おか》しく思いまする、小宮山は山気|膚《はだ》に染み渡り、小用《こよう》が達《た》したくなりました。
折角可い心地で寐《ね》ているものを起しては気の毒だ。勇士は轡《くつわ》の音に目を覚ますとか、美人が衾《ふすま》の音に起きませぬよう、そッと抜出して用達しをしてまいり、往復《ゆきかえり》何事もなかったのでありまするが、廊下の一方、今小宮山が行った反対の隅の方で、柱が三つばかり見えて、それに一つ一つ掛けてあります薄暗い洋燈《ランプ》の間を縫って、ひらひらと目に遮った、不思議な影がありました。それが天井の一尺ばかり下を見え隠れに飛びますから、小宮山は驚いて、入《い》り掛けた座敷の障子を開けもやらず、はてな、人魂《ひとだま》にしては色が黒いと、思いまする間も置かせず、飛ぶものは風を煽《あお》って、小宮山が座敷の障
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