子へ、ばたりと留《とま》った。これは、これは、全くおいでなすったか知らんと、屹《きっ》と見まする、黒い人魂に羽が生えて、耳が出来た、明《あきら》かに認めましたのは、ちょいと鳶《とび》くらいはあろうという、大きな蝙蝠《こうもり》であります。
 そいつが羽撃《はばたき》をして、ぐるりぐるりと障子に打附《ぶッつ》かって這《は》い廻る様子、その動くに従うて、部屋の中の燈火《ともしび》が、明《あかる》くなり暗くなるのも、思いなし心持のせいでありましょうか。
 さては随筆に飛騨《ひだ》、信州などの山近な片田舎に、宿を借る旅人が、病もなく一晩の内に息の根が止《とま》る事がしばしば有る、それは方言|飛縁魔《ひのえんま》と称《とな》え、蝙蝠に似た嘴《くちばし》の尖《とんが》った異形なものが、長襦袢を着て扱帯《しごき》を纏《まと》い、旅人の目には妖艶《あでやか》な女と見えて、寝ているものの懐へ入《い》り、嘴を開けると、上下《うえした》で、口、鼻を蔽《おお》い、寐息を吸って吸殺すがためだとございまする。あらぬか、それか、何にしても妙ではない、かようなものを間の内へ入れてはならずと、小宮山は思案をしながら、片
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