々眠くなって参ったようでざいますわ。」
と言い難《にく》そうに申しました。
「さあさあ、寐《ね》るが可い、寐るが可い。何でも気を休めるが一番だよ、今夜は附いているから安心をおし。」
「はい。」
と言ってお雪は深く頷《うなず》きましたが、静《しずか》に枕を向《むこう》へ返して、しばらくはものも言わないでおりましたが、また密《そっ》と小宮山の方へ向き直り、
「あのう、壁の方を向いておりますと、やはりあすこから抜け出して来ますようで、怖くってなりませんから、どうぞお顔の方に向かしておいて下さいましな。」
「うむ、可いとも。」
「でございますけれども……。」
「どうした。」
「あのう、極《きまり》が悪うございますよ。」
とほんのり瞼《まぶた》を染めながら、目を塞《ふさ》いでしかも頼母《たのも》しそう、力としまするよう、小宮山の胸で顔を隠すように横顔を見せ、床を隔てながら櫛巻の頭《つむり》を下げ、口の上|辺《あたり》まで衾《ふすま》の襟を引寄せましたが、やがてすやすやと寐入ったのでありまする。
その時の様子は、どんなにか嬉しそうであった――と、今でも小宮山が申しまする。さて小宮山は、勿論
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