伏拝んだと思うと、我に返ったという。
それから熱が醒《さ》めて、あの濡紙を剥《は》ぐように、全快をしたんだがね、病気の品に依っては随分そういう事が有勝《ありがち》のもの。
お前の女に責められるのも、今の話と同じそれは神経というものなんだから、しっかりして気を確《たしか》に持って御覧、大丈夫だ、きっとそんなものが連れ出しに来るなんて事はありゃしない。何も私が学者ぶって、お前さんがそれまでに判然した事を言うんだもの、嘘だの、馬鹿々々しいなどとは決して思うんじゃないよ。可いかい、姐さん、どうだ、解ったかね。」
と小宮山は且つ慰め、且つ諭したのでありまする、そう致しますと、その物語の調子も良く、取った譬《たとえ》も腑《ふ》に落ちましたものと、見えて、
「さようでございますかね。」
と申した事は纔《わずか》ながら、よく心も鎮って、体も落着いたようでありまする。
「そうとも、全くだ。大丈夫だよ、なあにそんなに気に懸ける事はない、ほんのちょいと気を取直すばかりで、そんな可怪《あや》しいものは西の海へさらりださ。」
「はい、難有《ありがと》う存じます、あのう、お蔭様で安心を致しましたせいか、少
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