、お参《まいり》をせずに措《お》くものかと、切歯《はがみ》をして、下じめをしっかりとしめ直し、雪駄《せった》を脱いですたすたと登り掛けた。
遮っていた婆は、今娘の登って来るのを、可恐《おそろ》しい顔で睨《にら》め附けたが、ひょろひょろと掴《つかま》って、冷い手で咽《のど》をしめた、あれと、言ったけれども、もう手足は利かず、講談でもよく言うがね、既に危《あやう》きそこへ。」
十三
「上《かみ》の鳥居の際へ一人出て来たのが、これを見るとつかつかと下りた、黒縮緬三ツ紋の羽織、仙台平《せんだいひら》の袴《はかま》、黒|羽二重《はぶたえ》の紋附を着て宗十郎|頭巾《ずきん》を冠《かぶ》り、金銀を鏤《ちりば》めた大小、雪駄|穿《ばき》、白足袋で、色の白い好《い》い男の、年若な武士で、大小などは旭《ひ》にきらきらして、その立派さといったらなかったそうだよ。石段の上の方から、ずって寄って、
(推参な、婆あ見苦しい。)と言いさま、お前、疫病神の襟首を取って、坂の下へずでんどうと逆様に投げ飛ばした、可い心持じゃないか。お小姓の難有《ありがた》さ、神とも仏ともただもう手を合せて、その武士を
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