ております。翌晩《あくるばん》になるとまた昨夜《ゆうべ》のように、同じ女が来て手を取って引出して、かの孤家へ連れてまいり、釘だ、縄だ、抜髪だ、蜥蜴《とかげ》の尾だわ、肋骨《あばらぼね》だわ、同じ事を繰返して、骨身に応《こた》えよと打擲《ちょうちゃく》する。
(お前、可い加減な事を言って、ちっとも思い切る様子はないではないか。さあ、思い切れ、思い切ると判然《はっきり》言え、これでも薬はまだ利かぬか。)
と言うのだそうでありますな。
申すまでもありません、お雪はとても辛抱の出来る事ではないのですから、きっと思い切ると言う。
それではと云って帰しまする。
翌晩《あくるばん》も、また翌晩も、連夜《まいよ》の事できっと時刻を違《たが》えず、その緑青で鋳出《いだ》したような、蒼い女が遣って参り、例の孤家へ連れ出すのだそうでありますが、口頭《くちさき》ばかりで思い切らない、不埒《ふらち》な奴、引摺《ひきず》りな阿魔めと、果《はて》は憤《いか》りを発して打ち打擲を続けるのだそうでございまして。
お雪はこれを口にするさえ耐えられない風情に見えました。
「貴方、どうして思い切れませんのでございま
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