ろ》がります、とその中へ、おどろのような髪を乱して、目の血走った、鼻の尖《とんが》った、痩《やせ》ッこけた女が、俯向《うつむ》けなりになって、ぬっくり顕《あらわ》れたのでございますよ。
(お雪や、これは嫉妬《しっと》で狂死《くるいじに》をした怨念《おんねん》だ。これをここへ呼び出したのも外じゃない、お前を復してやるその用に使うのだ。)と申しましてね、お神さんは突然《いきなり》袖を捲《まく》って、その怨念の胸の処へ手を当てて、ずうと突込《つッこ》んだ、思いますと、がばと口が開《あ》いて、拳《こぶし》が中へ。」
 と言懸けました、声に力は籠《こも》りましたけれども、体は一層力無げに、幾度も溜息を吐《つ》いた、お雪の顔は蒼ざめて参りまする。小宮山は我を忘れて枕を半《なかば》。
「そのまま真白《まっしろ》な肋骨《あばらぼね》を一筋、ぽきりと折って抜取りましてね。
(どうだ、手前《てめえ》が嫉妬で死んだ時の苦しみは、何とこのくらいのものだったかい。)と怨念に向いまして、お神さんがそう云いますと、あの、その怨霊《おんりょう》がね、貴方、上下《うえした》の歯を食い緊《しば》って、(ううむ、ううむ。)
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