なくちゃ可《い》けない。)と差附けられました時は、ものも言われません。
(お雪、私がこれを何にする、定めしお前は知っていよう。)どうして私が知っておりましょう。
(うむ、知ってる、知っている筈じゃないか、どうだ。)と責めるように申しますから、私はどうなる事でしょうと、可恐《おそろ》しさのあまり、何にも存じませんと、自分にも聞えませんくらい。
(何存ぜぬことがあるものか、これはな、お雪、お前の体に使うのだ、これでその病気を復《なお》してやる。)と屹《きっ》と睨《にら》んで言われましたから、私はもう舌が硬《こわば》ってしまいましたのでございます。お神さんは落着き払って、何か身繕《みづくろい》をしましたが、呪文のようなことを唱えて、その釘だの縄だのを、ばらばらと私の体へ投附けますじゃありませんか。
はッと思いますと、手も足も顫える事が出来なくなったので、どうでございましょう、そのまま真直《まっすぐ》に立ったのでございますわ。
そう致しますとお神さんは、棚の上からまた一つの赤い色の罎《びん》を出して、口を取ってまた呪文を唱えますとね、黒い煙が立登って、むらむらとそれが、あの土間の隅へ寛《ひ
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