しました時、越中の国の小川という温泉から湯女《ゆな》の魂を託《ことづか》って、遥々《はるばる》東京まで持って参ったというお話。
 越中に泊《とまり》と云って、家数千軒ばかり、ちょっと繁昌《はんじょう》な町があります。伏木《ふしき》から汽船に乗りますと、富山の岩瀬、四日市、魚津、泊となって、それから糸魚川《いといがわ》、関《せき》、親不知《おやしらず》、五智を通って、直江津へ出るのであります。
 小宮山はその日、富山を朝立《あさだち》、この泊の町に着いたのは、午後三時半頃。繁昌な処と申しながら、街道が一条《ひとすじ》海に添っておりますばかり、裏町、横町などと、謂《い》ってもないのであります、その町の半《なかば》頃のと有る茶店へ、草臥《くたび》れた足を休めました。

       二

 渋茶を喫しながら、四辺《あたり》を見る。街道の景色、また格別でございまして、今は駅路の鈴の音こそ聞えませぬが、馬、車、処の人々、本願寺|詣《もうで》の行者の類、これに豆腐屋、魚屋、郵便配達などが交《まじ》って往来引きも切らず、「早稲《わせ》の香や別け入る右は有磯海《ありそうみ》」という芭蕉の句も、この辺《
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