ばかり、日が経《た》ちますと起きてるのが大儀でなりませんので、どこが痛むというでもなく、寝てばかりおりましたのでございますよ。」
 さあ驕《おご》れ、手も無くそれは恋病《こいわずらい》だと、ここで言われた訳ではありませんから、小宮山は人の意気事を畏《かしこ》まって聞かされたのでありまする、勿論容体を聞く気でありますから、お雪の方でも、医者だと思って遠慮がない。
「久しくそんなに致しております内、ちょうどこの十日ばかり前の真夜中の事でございます。寐《ね》られません目をぱちぱちして、瞶《みつ》めておりました壁の表へ、絵に描《か》いたように、茫然《ぼんやり》、可恐《おそろ》しく脊の高い、お神さんの姿が顕《あらわ》れまして、私が夢かと思って、熟《じっ》と瞶めております中《うち》、跫音《あしおと》もせず壁から抜け出して、枕頭《まくらもと》へ立ちましたが、面長で険のある、鼻の高い、凄《すご》いほど好《い》い年増《としま》なんでございますよ。それが貴方、着物も顔も手足も、稲光《いなびかり》を浴びたように、蒼然《まっさお》で判然《はっきり》と見えました。」
「可訝《おか》しいね。」
「当然《あたりまえ
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