かりでも、私は故郷の人に逢いましたようで、お可懐《なつか》しいのでござりますよ。」
「東京が贔屓《ひいき》かい、それは難有《ありがた》いね、そしてここいらに、贔屓は珍しいが、何か仔細《しさい》が有りそうだな。」
 小宮山は、聞きませんでもその因縁《いわれ》を知っておりましょう、けれども、思うさま心の内を話さして、とにかく慰めてやりたい心。
「東京は大層広いそうでございますから、泊のものを、こちらで存じておりますような訳には参りますまいけれども、あのう、私は篠田|様《さん》と云う、貴方の御所《おところ》の方に、少し知己《しりあい》があるのでございまして。」
 小宮山は肚《はら》の内で、これだな……。
「訳は申上げる事は出来ませんが、そのお方の事が始終気に懸《かか》りまして、それがために、いつでも泣いたり笑ったり、自分でも解りませんほど、気を揉《も》んでおりました。それがあの、病の原因《もと》なんでございましょう。
 昼も夜もどっちで夢を見るのか解りませんような心持で、始終ふらふら致しておりましたが、お薬も戴きましたけれども、復《なお》ってからどうという張合がありませんから、弱りますのは体
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