ありましょう。お鉄は元気好く含羞《はにか》むお雪を柔《やわら》かに素直に寝かして、袖を叩き、裾を圧《おさ》え、
「さあ、お客様。」
と言ったのでありまするが、小宮山も人目のある前で枕を並べるのは、気が差して跋《ばつ》も悪うございますから、
「まあまあお前さん方。」
「さようならば、御免を蒙《こうむ》りまする。伊賀|越《ごえ》でおいでなすったお客じゃないから、私《わし》が股引《ももひき》穢《むそ》うても穿《は》いて寝るには及ばんわ、のうお雪。」
「旦那|笑談《じょうだん》ではございませんよ、失礼な。お客様御免下さいまし。」
と二人は一所に挨拶をして、上段の間を出て行《ゆ》きまする、親仁《おやじ》は両提《りょうさげ》の莨入《たばこいれ》をぶら提げながら、克明に禿頭《はげあたま》をちゃんと据えて、てくてくと敷居を越えて、廊下へ出逢頭《であいがしら》、わッと云う騒動《さわぎ》。
「痛え。」とあいたしこをした様子。
さっきから障子の外に、様子を窺《うかが》っておりましたものと見える、誰か女中の影に怯《おび》えたのでありまする。笑うやら、喚《わめ》くやら、ばたばたという内に、お鉄が障子を閉め
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