るには似ず垢附《あかつ》きまして、思做《おもいな》しか、涙の跡も見えたのでありまする。
お美津、お喜代は、枕の両傍《りょうばた》へちょいと屈《かが》んで、きゅうッきゅうッと真直《まっすぐ》に引直し、小宮山に挨拶をして、廊下の外へ。
ここへ例の女の肩に手弱《たお》やかな片手を掛け、悩ましい体を、少し倚懸《よりかか》り、下に浴衣、上へ繻子《しゅす》の襟の掛《かか》った、縞物《しまもの》の、白粉垢《おしろいあか》に冷たそうなのを襲《かさ》ねて、寝衣《ねまき》のままの姿であります、幅狭《はばせま》の巻附帯、髪は櫛巻《くしまき》にしておりますが、さまで結ばれても見えませぬのは、客の前へ出るというので櫛の歯に女の優しい心を籠《こ》めたものでありましょう。年紀《とし》の頃は十九か二十歳《はたち》、色は透通る程白く、鼻筋の通りました、窶《やつ》れても下脹《しもぶくれ》な、見るからに風の障るさえ痛々しい、葛《くず》の葉のうらみがちなるその風情。
八
高が気病《きやみ》と聞いたものが、思いの外のお雪の様子、小宮山はまず哀れさが先立って、主《あるじ》と顔を見合せまする。
介添の女は
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