るから、御断《おことわり》の遊ばし可いよう、わざと女共から御話を致させましたのでござりまするが、かように御心安く御承諾下さいましては、かえって失礼になりましてござりまする。
早速当人にも相伝えまして、久しぶりで飛んだ喜ばせてやりました。全く御蔭様でござりまする。何が貴方、かねての心懸《こころがけ》が宜《よろ》しゅうござりますので、私共もはや、特別に目を懸けまして、他人のように思いませぬから、毎晩|魘《うな》されまするのが、目も当てられませぬ、さればと申して、目を塞《ふさ》いで寝まする訳には参りませずな、いやもう。」
と言懸けて、頷《うなず》く小宮山の顔を見て、てかてかとした天窓《あたま》を掻《か》き、
「かような頭《つむり》を致しまして、あてこともない、化物|沙汰《ざた》を申上げまするばかりか、譫言《うわごと》の薬にもなりませんというは、誠に早やもっての外でござりますが、自慢にも何にもなりません、生得《しょうとく》大の臆病で、引窓がぱたりといっても箒《ほうき》が仆《たお》れても怖《おっか》な喫驚《びっくり》。
それに何と、いかに秋風が立って、温泉場が寂れたと申しましても、まあお聞
前へ
次へ
全70ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング