した。
「しかし姐《ねえ》さん、別々にするのだろうね。」
「何でございます。」
「何その、お床の儀だ。」
「おほほ、お雪さんにお聞きなさいまし。」
「可煩《うるさ》いな、まあ可いや。」
「さようならば、どうぞ。」
「可《よ》し可し。そのかわり姐さん、お前の名を言わないのじゃ……、」
「手前は柏屋でございます。」
 と急いで出て行く。
 これからお雪、良助、寝物語という、物凄《ものすご》い事に相成りまする。

       七

「これは旦那様。」
 入交って亭主柏屋金蔵、揉手《もみで》をしながらさきに挨拶に来た時より、打解けまして馴々《なれなれ》しく、
「どうも行届きませんで、御粗末様でございます。」
「いや色々、さあずッとこちらへ、何か女中が御病気だそうで、お前さんも、何かと御心配でありましょう。」
「へい、その事に就きまして、唯今はまた飛んだ手前勝手な御難題、早速|御聞済《おききずみ》下さいまして何とも相済みませぬ。実は私からお願い申しまする筈《はず》でござりましたが、かようなものでも、主人《あるじ》と思召《おぼしめ》し、成りませぬ処をたっても御承知下さいますようでは、恐れ入ります
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