》ごとのようには思いませぬ。

       六

「その時はどんなに可恐《おそろ》しゅうございましょう、苦しいの、切ないの、一層殺して欲しいの、とお雪さんが呻《うめ》きまして、ひいひい泣くんでございますもの、そしてね貴方、誰かを掴《つかま》えて話でもするように、何だい誰だ、などと言うではございませんか、その時はもう内曲《うちわ》の者一同、傍《そば》へ参りますどころではございませんよ、何だって貴方、異類異形のものが、病人の寝間にむらむらしておりますようで、遠くにいて皆《みんな》が耳を塞《ふさ》いで、突伏《つッぷ》してしまいますわ。
 それですから、その苦しみます時|傍《そば》に附いていて、撫《な》で擦《さす》りなどする事は誰も怪我《けが》にも出来ません。病人は薬より何より、ただ一晩おちおち心持好く寐《ね》て、どうせ助らないものを、せめてそれを思い出にして死にたいと。肩息で貴方ね、口癖のように申すんですよ、どうぞまあそれだけでも協《かな》えてやりたいと、皆《みんな》が心配をしますんですが、加持祈祷《かじきとう》と申しましても、どうして貴方ここいらは皆《みんな》狸の法印、章魚《たこ》の入道
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