ざいました、あのお雪さんの事でございますが、佳《い》い女はなぜあんなに体が弱いのでございましょうねえ。平生《ふだん》からの処へ、今度煩い附きまして、もう二月三月、十日ばかり前から、また大変に悩みますので、医者と申しましても、三里も参らねばなりませぬ。薬も何も貴方何の病気だか、誰にも考えが附きませぬので、ただもう体の補いになりますようなものを食べさしておくばかりでございますが、このごろじゃ段々|痩《や》せ細って、お粥《かゆ》も薄いのでなければ戴《いただ》かないようになりました。気心の好《い》い平生《ふだん》大人しい人でありますから、私共始め御主人も、かれこれ気を揉《も》んでおりますけれども、どこが痛むというではなし、苦しいというではなし、労《いたわ》りようがないのでございますよ。それでね、貴方、その病気と申しますのが、風邪を引いたの、お肚《なか》を痛めたのというのではない様子で、まあ、申せば、何か生霊《いきりょう》が取着《とッつ》いたとか、狐が見込んだとかいうのでございましょう。何でも悩み方が変なのでございますよ。その証拠には毎晩同じ時刻に魘《うな》されましてね。」
 小宮山も他人《ひと
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