ばっかりで、当《あて》になるものはありゃしませぬ。
 それに、本人を倚掛《よっかか》らせますのには、しっかりなすって、自分でお雪さんが頼母《たのも》しがるような方でなくっちゃ可《い》けますまい、それですのにちょいちょいお見えなさいまする、どのお客様も、お止し遊ばせば可いのに、お妖怪《ばけ》と云えば先方《さき》で怖がります、田舎の意気地《いくじ》無しばかり、俺《おいら》は蟒蛇《うわばみ》に呑まれて天窓《あたま》が兀《は》げたから湯治に来たの、狐に蚯蚓《みみず》を食わされて、それがためお肚《なか》を痛めたの、天狗に腕を折られたの、私共が聞いてさえ、馬鹿々々しいような事を言って、それが真面目だろうじゃありませんか。
 ですもの、どうして病人の力になんぞ、なってくれる事が出来ましょう。
 こう申しちゃ押着けがましゅうございますが、貴方はお見受け申したばかりでも、そんな怪しげな事を爪先へもお取上げ遊ばすような御様子は無い、本当に頼母しくお見上げ申しますんで。
 実は病人は貴方の御話を致しました処、そうでなくってさえ東京のお方と聞いて、病人は飛立つばかり、どうぞお慈悲にと申しますのは、私共からもお
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