うのだ。」
「お雪さんにお聞きなさいまし、貴方《あなた》は御存じでいらっしゃるんだよ、可憎《にくら》しゅうございますねえ、でもあのお気の毒さまでございますこと、お雪さんは貴方、久しい間病気で臥《ふせ》っておりますが。」
「何、病気だい、」
「はあ、ぶらぶら病《やまい》なんでございますが、このごろはまた気候が変りましたので、めっきりお弱んなすったようで、取乱しておりますけれど、貴方御用ならばちょいとお呼び申してみましょうか。」
「いえ、何、それにゃ及ばないよ。」
「あのう、きっと参りましょうよ、外ならぬ貴方様の事でございますもの。」
「どうでしょうか、此方様《こなた》にも御存じはなしさ、ただ好《い》い女だって途中で聞いて来たもんだから、どうぞ悪《あ》しからず。」
「どう致しまして、憚様《はばかりさま》。」
と言ったばかり、ちょいと言葉が途絶えましたから、小宮山は思い出したように、
「何と云うのだね、お前さんは。」
「手前は柏屋でございます。」
小宮山は苦笑《にがわらい》を致しましたが、已《や》む事を得ず、
「それじゃ柏屋の姉さん、一つ申上げることにしよう。」
「まあお酌を致しましょう
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